趣味の原点を振り返る18・GD Lineの衝撃

 今回は久しぶりに思い出話です。


 JOHN ALLENのGD Lineはその発表当初から世界中のレイアウトビルダーの目標となっている有名なレイアウトとされています。
 以前から断片的に写真は観ていたのですが、レイアウトの全体像を把握できたのは私自身がレイアウトを作り始めた2005年の事です。

 CARMBACK版の写真集を秋葉原のポポンデッタで見つけたのがそのきっかけでしたが、以後古本屋はおろかネットでも同じ本を見つけられなかったので今から思えば実に幸運でした。

 さてGD Lineの全体像をこの写真集で初めて知った訳ですが、その規模もさることながら驚くべきポイントの多さにも圧倒されました。
 一例をあげれば自宅の敷地面積に匹敵する広さの地下室にアメリカの一つの「地方」を表現した大レイアウトなのですが、その大レイアウトが畳一枚よりやや大きい程度の小スペースからスタートし、紆余曲折を経ながら順次拡大して行ったという処にまず驚かされます。
 これは最初のレイアウトを作る段階でシーナリィの設定が一つの大きなグランドデザインを前提になされている事を示すものです。
 実際、写真集の冒頭には氏自身のイラストになるレイアウトの舞台となる地域の大掛かりな俯瞰図が描かれており複数の都市や町をその産業に絡めて鉄道がどう結び付けているかが一目瞭然でわかるようになっていました。
 今、日本のレイアウトでこれだけ大掛かりな裏設定を(しかもレイアウト作りに有機的にフィードバックさせつつ)行っている例は21世紀の今ですら絶無に等しいのではないでしょうか。
  
 HOスケールでレールは一本一本犬釘を打ち込んで作られ、さまざまなポージングの人形一体一体に至るまでスクラッチしている熱意にも頭が下がります。
 そうして創生されている風景もただ細かいだけでなく見る者の視覚効果を十分に計算し実際以上の広がりのある文字通りの「ジオラマ(DIORAMAの語源は「風景のパノラマ」から来ているそうです)」となっています。
 (視覚効果のテクニックは一言で書き切れませんが今の日本のレイアウトが使っていない「裏ワザ」のオンパレードとだけ言っておきましょう。窮屈な細密至上主義には手の届かない境地がそこにあります)

 そしてGD Lineにおいては設定さえきちんとしていれば何でもアリといった自由さも同時に溢れています。
 何しろ貨物駅の積み込み作業には「リアカーを引くステゴザウルス」が存在しそれが実に自然に溶け込んでいるくらいです。単なるおふざけに感じさせない所は、工作力だけではなく場面作りのセンスの良さといかに基本の設定がしっかりしているかの証左でしょう。
 
 とにかくレイアウト全体に溢れるJohn Allen氏の才気には感動すら覚えました。

 しかもこれだけのレイアウトが1941年(昭和16年!)着工、Allen氏自身の死によっての工事中断(!)したのが1973年(昭和48年)と32年にわたって作られ続けてきた事、それ自体が一つのロマンと言えると思います。
 この写真集は今でも時々読み返しますがその度に強くインスパイヤさせられます。GDの魅力や学ぶべき点は到底この狭いブログでは語りきれません。

 そしてこうしたレイアウトに憧れ、少しでも近付きたいという気持ちになれる事が趣味人として一つの幸福でもある事を実感します。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック