日本最古(?)のレイアウト本を発掘する(笑)


 今回はひょんなことから入手した鉄道模型本のはなしから。

 「子供の科学」で有名な誠文堂新光社は以前から鉄道関係の書籍が充実していたところとして知られた存在でしたが、鉄道模型の本も数はそれほど多くはないにしても面白い物を出している事があります。
 今回紹介するのはその中でも最も古い物の一冊ではないかと思います。

 「少年技師ハンドブック・鐵道模型レイアウトの作り方」(国峰孝太郎著)
 単にタイトルだけを聞いてもピンと来ない向きもあるかと思いますが注目すべきはその発行時期です。

 この本の初版は昭和24年1月20日。
 日本がサンフランシスコ講和条約を経て実質的に主権を回復したのがその翌年の25年。また、それ以前の日本では鉄道模型はイコール「車両模型」でしかなく、16番最初の個人用のレイアウトが登場したのですらやはり本書の翌年の25年です。
 おそらく(私の知る限り、という但し書きつきですが)本書は「日本で最古のレイアウトの入門書」だったのではないでしょうか。

 これだけでも十分に驚くべき事なのですが、その中身も実に充実しており入門書の骨格としては今でも十分に通用するどころか64年たっているのに未だに先進的に感じる部分さえあります。
 この驚きはとても一回では書き尽くせません。

 本書が出た時期は先にも書いたように主権回復の前の時期。アメリカを中心とする進駐軍の将士の中の趣味人の手で鉄道模型が改めて紹介されると同時に彼らの注文に応じる形でHOの鉄道模型が輸出産業のひとつとして勃興しかけていた頃に当たります。
 万世橋時代の交通博物館のHO大レイアウト(現在もそのコンセプトは鉄道博物館のそれに引き継がれています)のルーツも駐留軍のエリオット軍曹が始めたレイアウトにあったそうですし。

 当然車両模型だけではなく「それらを走らせる舞台」としての「レイアウト」の楽しみも次々に紹介されていたでしょう。

 それらの情報を生で触れた著者を含めた鉄道模型趣味人にとってはこれは正に一種の「文明開化」だったのではないでしょうか。
 本書を読んでいてまず気づくのは全編通して流れるその溌剌とした筆致でした。
 これほど古い本でありながらこれほど読後感の若々しい「鉄道模型の本」というのには私自身、未だに会った事がありません。

 とはいうものの当時はまだHO=16番のモデルはまだ日本では将来性を不安視されていた様で、本書のレイアウト制作もそのすべてがOゲージを基準としています。
 

 そうした気負いもあってか、本書はあらゆる意味で「レイアウトの教科書」たらんとしている内容でした。
 後のレイアウトの入門書のすべての内容がこの一冊にすべて集約され、あらゆる意味での「原点」になっているのではないかと思います。

 まず基本的なところでトラックプランの種類が紹介されていますが、これまで見たどのレイアウトプラン集よりもわかりやすい説明でまずここに感心しました。
 更に以前私が考察した「レイアウトの高さの設定」についてもかなり詳細に説明されており「低すぎる」デメリットと同時に「高すぎる」事のデメリットにも触れていたのが印象的でした。
 当時の住宅事情から「鴨居の上に線路を敷かざるを得ない」シチュエーションが多かった日本ならではの悩みとも言えます。

 線路の作り方から始まり、その中にはカントやスラックの設定方法、更には当時のOゲージらしく「第3軌条の釘の打ち方」なんてのもあります。
 更にすごいのは上記のカント、スラック、半径に準拠した「線路標識の作り方や設置の仕方」まであります(!)
 ポイントも3線式の自作の仕方がありますし、架線の作りかた、カーブでの架線の張り方も載っています。


 そんな具合ですからストラクチャーやアクセサリなどは当然の様にフルスクラッチ。
 これまた当然の様に「建築限界の測定車」の工作記事もあります。

 パワーパックは「制御器」と呼ばれこれまたフルスクラッチで運転台そのまんまの物の製作法が載っていました。
 また、当時はコントローラとトランスが別体(高級なパワーパックでは今でも見かけますが)となっているのでこれまた自作記事があるのですがトランスを「変電所」と呼んで「実際に建物に内蔵させる」という形式であらわされています。
 正直これは「目から鱗」でした。実際の鉄道では「電源部と制御器が別々なのは当たり前」なのにモデルの世界ではそれが忘れられがちです。電源部と制御部を別々にすることで気分的にも「システムとしての鉄道」を感じさせるこのシステムは大レイアウトや高級なレイアウトを志向するなら考慮の価値がありそうです。

 このコンセプトはTOMIXのワイヤレスコントローラやKATOのDCC、根本的なところでメルクリンの3線式などに近いと思われます。

 更にびっくりなのは「移動変電所」の作り方なんてのまであった事です。
 移動変電所は実車の世界には存在するのに不思議とNや16番でモデル化されたという記事を専門誌ですら殆ど見た事がありません。
 しかも本書の奴は実際にコンセントから電気を引っ張って給電すると来ているのですから驚きとしか言いようがありません。

 いずれにしろ非常に面白い本が入手できたと思います。
 この本に触発されたことは結構ありましたので追々紹介したいと思います。

光山鉄道管理局
 HPです。

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