「鉄道模型作品20題」に昭和20年代の鉄道模型を見る

 先日入手したTMS別冊から。
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 かつて(最終版が出たのは80年代初め頃)TMS特集シリーズという旧記事のアーカイブが出ていた事があります。
 昭和20年代~30年代前半頃にかけてTMS本誌に掲載された製作記事を中心にジャンルごとに纏めた物で、主に車両工作編とレイアウト編に大別され十数冊リリースされたようです。

 それらの中でレイアウト関連の物は10年ほど前に揃えましたし、車両工作編も私が興味を持ち、且つ安かったものから入手しています。

 今回紹介するのはその中でも最も古い「鉄道模型作品20題」
 「最も古い」とは言いましたが80年代初頭の最終版なら安い物で数百円位で買えます。

 本書はTMS創刊前後の時期、正確には昭和20年代の号に掲載されていた車両工作記事を中心に纏めたものです。
 この頃は16番自体がまだ「新参規格」だった頃でメインになっているのはOゲージ又は0番規格のモデルという事になります。

 何しろ16番の約4倍、Nと比べても16倍の体積のモデルの工作ですから初期の16番では殆ど無かった蒸気のバックプレートや電車の室内工作などは当たり前。
 この時期は「O番は細密モデル、16番は運転を楽しむモデル」という棲み分けだった事がわかります。
 そのO番、Oゲージも日本型に囚われず、米国型の蒸機やスイッチャーの比率が意外と高いのが世相を感じさせます。

 16番モデルもスケール機よりはフリースタイルが中心ですが、この頃のフリーというのは16番という新規格の可能性を模索する意味もあった様です。
 その証拠に素材はブラスばかりかペーパーやセルロイドまで動員されていましたし2軸貨車の台車をボギー化した独特の寸詰まり感のある「ムキ」と呼ばれるフリー貨車が持て囃されたのも当時の「運転主体の16番」の立ち位置を象徴していると思います。

 更にその一方で12ミリの「TTゲージ」もこの時期名乗りを上げていた様です。
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 ですが本書で一番私が驚いたのは「8ミリゲージの連接車の工作」の記事です。
 これほど凝った内容の「Nゲージより小さいモデル」が自作されていた(しかも車載逆転機の存在に言及されている所からAC電源のモデルと思われます)事にまず驚かされます。
 しかも発表されたのは昭和20年代ですが実際に製作されたのは昭和16年だったというのに二度びっくりです。
 (ちなみにこれとほぼ同じ時期にアメリカではHOゲージの伝説的レイアウトであるJOHN ALLENのGD LINEが着工されています)

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 Nゲージの量産品ですら連接車のモデルが出たのは60年代半ば位ですから(規格が新しいから当たり前と言えばそれまでですが)相当に先進的なモデル作りと言えます。
 写真は以前紹介したBACHMANNのターボトランですが構造といいデザインといい今回のモデルとよく似ています。
 製作工程6カ月、うち丸一ヶ月がモーターの自作に費やされていたとの事です。

 が、更に驚くのがこのモデルの製作動機でした。
 庭園鉄道のある自宅から急に6畳一間の下宿住まいとなりハンダ鏝の仕様すら制限される中で「膝の上でも工作できる物を」という事でスタートしたものだというのです。
 この辺りの事情に戦争の影が何となく感じられる気もしますが、それよりもそこまですべてが制限された環境の中でも「何か作りたい」と思い続ける動機づけの強烈さと意欲の持続には読んでいて頭が下がる思いです。

 「環境が違うから製作に時間がかかるのは当たり前」と一言でいうのは簡単ですが、ここは素直に独創性と同時に「作る」事それ自体のプライオリティの高さに素直に驚くべき所でしょう。

 その一方でスケールモデルだけに拘らず「自らの心象風景の中を走る列車」というコンセプトで朴訥ながら非常にバランスのとれた車両群を送り出した「イーハトーヴォ高原鉄道(レイアウトではなく車両群の総称)」のイマジネーションの豊かさにも心を打たれました。

 全体にどの記事も筆致は冷静なのに不思議な熱気のオーラが感じ取れますが戦時中の逼塞状態から(その一方で物資は欠乏し時間も少なかったはず)鬱積していたなにかが一気に解放されたかの様です。
 そのせいか一部に旧かな遣いが散見されるにも拘らずそんな些細な事が全く気にならない位に一気に読み進められましたし、読み終わってからもすぐにまた最初から読み始めるという具合でした。

 実は読み始めるまでは「帰りの電車の暇つぶし」位にしか考えていなかったのも確かですが、本全体にみなぎる熱気にほだされて終点に着くまでの時間を忘れるほど集中してしまいました。
 本書は間違いなく私に元気を注入してくれる一冊だったと思います。
光山鉄道管理局
 HPです。車両紹介「電車の項」一部追加しました


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