鉄道ミステリとNゲージを語る2「とむらい機関車」とD50
先日からスタートさせました鉄道ミステリとそれに絡んだNゲージモデルのはなしから。
今回は光文社版「下りはつかり」所収の大阪圭吉の「とむらい機関車」を。
大阪圭吉と聞いて誰かすぐ分かる人は余程の探偵小説ファンではないかと思います。
我が国における本格推理小説の先駆者という位置付けで短編ばかりとは言え謎解き小説として今でも通用するものが多い作品ばかりです。
ですが、作者自身が終戦直前にルソン島で戦病死した上に戦災で大半の作品原稿が焼失(この中には未発表の長編作品もあったらしいです)した事もあって現在では一般に語られる事の少ない作家でもあります。
さて本作ですがある機関区で轢殺の記録保持者という忌まわしい経歴の蒸気機関車にまつわるミステリです。
こう書くと怪奇小説じみていますが、シチュエーションの異常性、謎解きのプロセスの確かさで探偵小説としての基本はきちんと押さえてあるにもかかわらず犯人や動機の意外性から物哀しいラストまで一気に読ませる内容です。
加えて舞台となる機関区内の描写のリアルさは当時の探偵小説の中でも群を抜いており、作者に鉄道員の経験がないというのが信じられないほどです。
それらも併せて個人的には鉄道ミステリアンソロジーの作品の中では文句なしのNo1だとすら思っています。
因みに本作は青空文庫でも購読可能なので未読の型には是非一読をお勧めしたいと思います。
本作の主役になるのはD50型、架空のナンバーである444号機です。
冒頭でこのD50の経歴と外見を主人公が語るくだりがあるのですが、これがなかなかの名文で目をつぶっていても機関車の輪郭がぼーっと浮かんでくる描写力があります。
この場を借りて当時の文面を再録させていただきますと
~話、と言うのは数年前に遡(さかのぼり)ますが、私の勤めていたH駅のあの扇形をした機関庫に……あれは普通にラウンド・ハウスと言われていますが……其処そこに、大勢の掛員達から「葬式(とむらい)機関車」と呼ばれている、黒々と燻すすけた、古い、大きな姿体の機関車があります。
形式、番号は、D50・444号で、碾臼(ひきうす)の様に頑固で逞しい四対(よんつい)の聯結主働輪の上に、まるで妊婦(みもちおんな)のオナカみたいな太った鑵(かま)を乗のっけその又上に茶釜の様な煙突や、福助頭の様な蒸汽貯蔵鑵ドオムを頂いた、堂々たる貨物列車用の炭水車付テンダー機関車なんです。
ところが、妙な事にこの機関車は、H駅の機関庫に所属している沢山の機関車の中でも、ま、偶然と言うんでしょうが、一番轢殺(れきさつ)事故をよく起す粗忽(そこつ)屋でして、大正十二年に川崎で製作され、直(ただ)ちに東海道線の貨物列車用として運転に就いて以来、当時までに、どうです実に二十数件と言う轢殺事故を惹(ひ)き起して、いまではもう押しも押されもせぬ最大の、何んと言いますか……記録保持者(レコード・ホルダー)? として、H機関庫に前科者の覇権を握っていると言う、なかなかやかましい代物です。~
(光文社カッパノベルズ「下りはつかり」P59から引用)
ここを読みながらつぶっていた目をうっすら開けてみるとそこにあるのが「マイクロのD50」だったりした日には(笑)
という訳で私の手持ちのD50はマイクロのプラ製品のみです。
これ以前に中村精密から金属車体のモデルも出ていたのですが流石に高すぎて買えません。
9600やE10辺りだと中々に良い造形のモデルもあるマイクロなのですが似た様な構造なのにこのD50に関しては小径動輪に太いボイラと9600とよく似た造形になるはずなのにふしぎとD50ぽさを感じません。
先行発売されたD51とユニットを共用したせいかボイラが異様に長く、微妙に太い事が大きく関係していそうです。
9600とD51の間にあって実車も中々の大勢力だった筈のD50ですがふしぎとこれ以外どこもモデル化してくれないという残念な機関車です。
運転派にしてみれば「D51では大袈裟すぎるけど9600では貧弱」というニーズにはぴったりな機関車ですがそういうニーズは今となっては少ないと言う事でしょうか(涙)
光山鉄道管理局
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今回は光文社版「下りはつかり」所収の大阪圭吉の「とむらい機関車」を。
大阪圭吉と聞いて誰かすぐ分かる人は余程の探偵小説ファンではないかと思います。
我が国における本格推理小説の先駆者という位置付けで短編ばかりとは言え謎解き小説として今でも通用するものが多い作品ばかりです。
ですが、作者自身が終戦直前にルソン島で戦病死した上に戦災で大半の作品原稿が焼失(この中には未発表の長編作品もあったらしいです)した事もあって現在では一般に語られる事の少ない作家でもあります。
さて本作ですがある機関区で轢殺の記録保持者という忌まわしい経歴の蒸気機関車にまつわるミステリです。
こう書くと怪奇小説じみていますが、シチュエーションの異常性、謎解きのプロセスの確かさで探偵小説としての基本はきちんと押さえてあるにもかかわらず犯人や動機の意外性から物哀しいラストまで一気に読ませる内容です。
加えて舞台となる機関区内の描写のリアルさは当時の探偵小説の中でも群を抜いており、作者に鉄道員の経験がないというのが信じられないほどです。
それらも併せて個人的には鉄道ミステリアンソロジーの作品の中では文句なしのNo1だとすら思っています。
因みに本作は青空文庫でも購読可能なので未読の型には是非一読をお勧めしたいと思います。
本作の主役になるのはD50型、架空のナンバーである444号機です。
冒頭でこのD50の経歴と外見を主人公が語るくだりがあるのですが、これがなかなかの名文で目をつぶっていても機関車の輪郭がぼーっと浮かんでくる描写力があります。
この場を借りて当時の文面を再録させていただきますと
~話、と言うのは数年前に遡(さかのぼり)ますが、私の勤めていたH駅のあの扇形をした機関庫に……あれは普通にラウンド・ハウスと言われていますが……其処そこに、大勢の掛員達から「葬式(とむらい)機関車」と呼ばれている、黒々と燻すすけた、古い、大きな姿体の機関車があります。
形式、番号は、D50・444号で、碾臼(ひきうす)の様に頑固で逞しい四対(よんつい)の聯結主働輪の上に、まるで妊婦(みもちおんな)のオナカみたいな太った鑵(かま)を乗のっけその又上に茶釜の様な煙突や、福助頭の様な蒸汽貯蔵鑵ドオムを頂いた、堂々たる貨物列車用の炭水車付テンダー機関車なんです。
ところが、妙な事にこの機関車は、H駅の機関庫に所属している沢山の機関車の中でも、ま、偶然と言うんでしょうが、一番轢殺(れきさつ)事故をよく起す粗忽(そこつ)屋でして、大正十二年に川崎で製作され、直(ただ)ちに東海道線の貨物列車用として運転に就いて以来、当時までに、どうです実に二十数件と言う轢殺事故を惹(ひ)き起して、いまではもう押しも押されもせぬ最大の、何んと言いますか……記録保持者(レコード・ホルダー)? として、H機関庫に前科者の覇権を握っていると言う、なかなかやかましい代物です。~
(光文社カッパノベルズ「下りはつかり」P59から引用)
ここを読みながらつぶっていた目をうっすら開けてみるとそこにあるのが「マイクロのD50」だったりした日には(笑)
という訳で私の手持ちのD50はマイクロのプラ製品のみです。
これ以前に中村精密から金属車体のモデルも出ていたのですが流石に高すぎて買えません。
9600やE10辺りだと中々に良い造形のモデルもあるマイクロなのですが似た様な構造なのにこのD50に関しては小径動輪に太いボイラと9600とよく似た造形になるはずなのにふしぎとD50ぽさを感じません。
先行発売されたD51とユニットを共用したせいかボイラが異様に長く、微妙に太い事が大きく関係していそうです。
9600とD51の間にあって実車も中々の大勢力だった筈のD50ですがふしぎとこれ以外どこもモデル化してくれないという残念な機関車です。
運転派にしてみれば「D51では大袈裟すぎるけど9600では貧弱」というニーズにはぴったりな機関車ですがそういうニーズは今となっては少ないと言う事でしょうか(涙)
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