鉄道ミステリとNゲージを語る3「電気機関車殺人事件」と謎のEF18(笑)

 今回は「下りはつかり」所載の「電気機関車殺人事件」から
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 この作品の概要をかいつまむと、終戦直後の時期の上越線を想定したと思われる電化工事の進捗著しい常信線の周辺を舞台に「走行中の電気機関車内で発生した機関士・助手の殺人事件」を追う素人探偵の電気技師の活躍を描いたものです。

 本作の作者の芝山倉平氏は作品がこれ一作だけだったという事もあって最初の頃は正体不明でした。
 後になって明電舎の元会長の故関四郎氏が国鉄勤務時に掛かれていた作品である事が判明、鮎川哲也氏の「幻の探偵作家を求めて」に作者のインタビューが掲載されています。

 それによると山岳地が多く水力発電の利が得られる日本では鉄道の電化が必須であるとの判断から、一般の人々に啓蒙の意味も込めて読者が多い探偵小説の形式で本作を上梓されたそうです。
 探偵小説の執筆動機としてはこの点でもかなり異色です。
 確かに3部構成の小説の2部に相当する部分は、技師である主人公の素人探偵が鉄道電化の必要性を説く話で殆どが費やされていたりします。


 それでいて探偵小説としてもかなり異色な特徴もあって作者の主張を別にしてもかなり興味深い内容でした。だからこそ30年近くを経てミステリとして再評価されたともいえます。

 普通鉄道ミステリではその大半がダイヤグラムを使ったアリバイトリックで、鉄道の機構を殺人トリックに使うものがそれに次いで多い傾向があります。
 本編は後者の部類ですが、電気機関車の構造や無蓋貨車の特徴を利用した殺人トリック自体が専門家でないと思いつかない物なのに加え、トリックに要する犯人の計算が列車の速度や減速率、更には被害者の心理までも文字通り分秒刻みで巧みに計算した「理数系の殺人計画」なのが最大の特徴です。

 一方、その犯人を追う素人探偵も本職が技師なだけにこれまた普通の作家が思いつかない手がかりから犯人を指摘するところが圧巻でした。
 犯人のトリックが暴かれるプロセスで「数式がバンバン出てくる」探偵小説などは今でも相当に異色ではないかと。
 少なくとも「マイクロメーターの計測で犯人を指摘する」というシークエンスは今のところ空前絶後だと思います。

 この部分はぜひ実物を読んで頂いた方が良いと思います。
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 さて本作の特徴は上記の点にもありますがマニアが驚くのは主役の機関車がEF18である点です。
 普通の作家ならある程度有名な車両とか列車を選ぶところなのでしょうが、EF58のギア比を変更して貨物、勾配区間の運用に特化した一般には殆ど知られていない(当時なら「どこにでもありそうな」機関車のひとつにしか見えない)EF18を選択するところに作者の手堅さと考証の確かさを感じます。
(とはいえ、前半ではそのEF18が客車列車を牽引していたりするのですが)

 ・・・と思っていたのですがこのブログを書くに当たって再読してみたところ驚いた事に本作の掲載は昭和21年。
 EF58ならともかく、EF18はまだ出ていない時期だったのです。
 つまり純粋に架空の電気機関車として描かれていた事になるのですが、作品内に挿入された機関車車内の平面図はデッキの長さなどから見てもEF57かEF58の2軸デッキを想定した一見して実際のEF18にしか見えないものだったのでずいぶん長い間騙されていた事になります(大体にして初読の当時餓鬼だった私が昔のデッキ付き機関車の種類など気にする訳もなかったのですが笑)

 冒頭、事件直前の列車内で主人公が語る機関車の運転やトンネルの描写なども専門的ながら非常にリアルな物でおそらく相当な鉄道ファンが読んでも違和感は少ないのではないでしょうか。

 再発売の文庫版でもこれを読むのは容易と思いますので是非お勧めしたい一篇であります。
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そのEF18ですがプラ製量販品はマイクロから出ていますが今回取り上げるのは数年前に中古を入手していたワールド工芸の仕様です。
 EF18とそのベースとなっている旧EF58は機種としてはメジャーな部類であるにも関わらずKATO・TOMIXの二大メジャーから未だにモデル化されていません。後思いつくのはエンドウのキットですがこれも殆ど見かけないですね。

 ワールドの仕様は動力に既製品を用いていますがデッキ周りの細密感で大分得をしている印象です。
光山鉄道管理局
 HPです。

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