鉄道ミステリとNゲージを語る7「気狂い機関車」とB6蒸機から

 今回は徳間文庫トラベルミステリー「シグナルは消えた」所収の大坂圭吉の「気違い機関車」(但し文庫では「狂った機関車」に変更)を。

 大阪作品では以前にD50を主役に据えた「とむらい機関車」を紹介しましたがこの作家の作品は鉄道に限らずどのジャンルの作品でも事前の情報収集や取材をきちんと行なって書くと言う特徴があります。
 今でこそこういう創作姿勢は当然なのですが戦前の探偵小説の勃興期でこういう緻密な姿勢はまだ珍しかった事もあり作者を「本格推理小説の先駆者」と呼ばれる理由のひとつに数え上げさせています。

 鉄道物ではありませんが「デパートの絞刑吏」「カンカン虫殺人事件」などでもその特徴は顕著でこれだけを読んだら作者がデパートの宿直や港湾人夫の経験者ではないかと思わせる説得力があります。
 その点は本作でも同様でこれやとむらい機関車だけ読めば作者が鉄道員だと思ってしまう読者は結構いる気がします。
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 取材に基づく知識が確かなだけでなく、そうして得られた情報を事更にひけらかすような書き方を避けている所もそうした印象に繋がっている感じがします。

 それはさておき、
 本作はある雪の夜に走行中の機関車で発生した機関士の殺人事件とそれに伴って行方不明になった蒸気機関車の行方を捜す二重のミステリを短編として要領よくまとめています。
 ネタばれになるので落ちは書きませんが犯人の意外性や動機の異常性は今読み返しても強い印象を残します。
 (本作は「とむらい機関車」同様に青空文庫でもただでw読めますので是非併読をお勧めします)
 その一部をここで引用させて頂くと
「列車――と言うと、一寸門外の方には変に思われるかも知れませんが、恰度(ちょうど)その時刻には、H機関庫からN駅の操車場(ハンプヤード)へ、作業のために臨時運転をされた長距離単行機関車がこの線路を通過しております。
入換用のタンク機関車で、番号は、確か2400形式・73号――だったと思います。御承知の通り、臨時の単行機関車などには勿論(もちろん)表定速度はありませんので、閉塞装置に依る停車命令のない限り、言い換えれば、予あらかじめ運転区間の線路上に於ける安全が保障されている以上、多少の時刻の緩和は認められております。
で、そんな訳で、その73号のタンク機関車が本屋のホームを通過した時刻を、今ここで厳密に申上げる事は出来ないですが、何でもそれは、三時三十分を五分以上外れる様な事はなかったと思います。
尚、機関車が下り一番線を通ったのは、恰度その時、下り本線に貨物列車が停車していたためです。――」
「そうです。――多分御承知の事とは思いますが、タンク機関車は他のテンダー機関車と違って、別に炭水車テンダーを牽引しておらず、機関車の主体の一部に狭少な炭水槽タンクを持っているだけです。
従ってH・N間の様に六十哩(マイル)近くもある長距離の単行運転をする場合には、どうしても当駅で炭水の補給をしなければならないのです。勿論73号も、此処で停車したに違いありません。
そして、この給水タンクから水を飲み込み、そこの貯炭パイルから石炭を積み込んだでしょう」
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 さて、本作の主役となる機関車は2400形タンク機関車。
 一見してマイナーな形式の様に見えますが、これは明治時代に大量に輸入、国産化されたタンク機の代表格「B6」の一機種です。
 「B6」というのは動輪が3対、後に一対の従輪が付いたタイプを指します。
 一般にB6と呼ばれて一番ポピュラーなのはイギリスから輸入された2120形ですが、2400はこれのドイツ版です。
 ふたつを並べれば外見上の差異は結構あるのですが素人目にはほとんど見分けはつきません。
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 Nゲージで出ているB6も2120が殆どで私が知る限り2400形としてのリリースはなかった筈ですが、雰囲気的には殆ど同じですのでここに紹介する次第です。
 B6で最も入手しやすいのは今は亡き河合商会製のモデルですがメーカーの気合からか微妙な仕様違いが4タイプ出ている上にそれとは別にブラス車体のモデルまでリリースされています。
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 このB6は国鉄は勿論、私鉄や専用線などに譲渡されたものが多い上に昭和40年頃までは入替用で使われていたほど息の長い機関車でした。
 特撮映画では「青島要塞爆撃命令」ウルトラQの「甘い蜜の恐怖」にこれのミニチュアが登場します。

 その意味で言えばもっとモデルが出てもおかしくない機関車と思います。
光山鉄道管理局
 HPです。

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この記事へのコメント

レサレサ
2016年06月25日 15:47
B6は私の好きな「旧式2軸貨車を引いてとことこ走る列車」にちょうど手ごろな機関車なのですが、河合を始め既存のNゲージ車両のは曲線通過性能が悪いらしく、うちのレイアウトで使えそうにないんですよねぇ…
従輪を首振るようにすればもう少し上がるんじゃ…と思って調べたところ「実機も従輪がろくに動かず、動輪間隔が短いわりに曲線通過時の横圧がでかい。」との事。
(実際に入れ替え用にB6導入したら線路のずれがひどくなった地区もあったとか)
そこまで再現しなくてもいいんじゃ・・・
光山市交通局
2016年06月25日 16:58
>レサレサさん

 河合のB6といいKATOのC11といい、小型蒸機が意外に小径カーブに弱いのはあまり嬉しくない話ですね。

 TOMIXのKSKタイプもミニカーブでは青息吐息なのに標準のC280だと実に生き生きと走ってくれるので「何のために小型機を出しているのか」なんて理不尽な愚痴をこぼしたくなります(汗)

 ご指摘の通りB6のネックは従輪ですね。実物通りにするよりも素直に首を振らせてくれればいいのにと思います。