鉄道ミステリとNゲージを語る17・「EF63形電気機関車の証言」

 鉄道ミステリのアンソロジーは鮎川哲也の後にも何冊かの追随シリーズを生みました。

 それらもまた元祖に負けない位の中身の濃いセレクトで鮎川氏没後の渇を癒してくれるものばかりなのは重畳の至りです。
 今回はそれらのシリーズの中からセレクトした短編から。
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 光文社文庫、日本ペンクラブ編「殺意を運ぶ列車」から西村京太郎の「EF63形機関車の証言」をば。

 西村京太郎と言えば鉄道ミステリ、トラベルミステリの大御所ですがこれまで紹介してきたアンソロジーは西村氏の人気が沸騰しだす直前位のタイミングの上梓だった事もあってなかなか取り上げられる機会が少なかったと思われます。
 今回の作品はタイトルの通り機関車がアリバイトリックの要を成している点でトラベルミステリの中でも異色の構成と思います。

 浅草で起きた銀行強盗の容疑者が犯行時「あさま9号」に乗っていたとアリバイを主張。
 その証拠として軽井沢駅で撮影されたEF63の写真を出してくる。果たして犯人はどんなトリックを使ったのか?

 という、なんだか推理クイズの問題コーナーみたいな構成ですが、どちらかといえば長編向けの作風が持ち味の作者なだけにトリック一点突破の趣が強くファンには少し物足りない気もするかもしれません。
 トリックそのものも、鉄道ファンやマニアにはすぐに見当のつくレベルの物と思うのでここでは書きません。興味をお持ちの向きはご一読をお勧めします。

 ~横川から軽井沢まで、十二両連結の「あさま9号」を後押しして登って来たEF63形が、今度は、ブレーキ役をして、横川まで、急勾配を、下りてゆくのである。

 十津川たちが、じっと、その作業を見守っていると、青木駅長が、駅舎から出てきた。
 「このEF63形は、どんな形の電車とも連結できるように出来ています。この碓氷峠では、普通も、急行も、特急も、EF63形の厄介になりますからね」
 と、駅長が横から言った。
 「なるほど、それだけ、いろいろな機構を持った機関車ということですね」
 亀井が、感心したようにいった。が、十津川は、駅長の説明が聞こえなかったみたいに、じっと連結作業を見守っていた。
 (上掲書、P323、324から引用)
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 上記の様にマニアでない一般読者相手にEF63という機関車の特殊性を平易な文章で的確にまとめる所はさすがトラベルミステリの第一人者と思います。
 これがマニアの手にでもかかると余計な専門用語や隠語の羅列になって、ただ長いだけの難解な文章になりがちなところでしょう。

 さて、このEF63、碓氷峠の廃止に伴い注目度が上昇した事もあってNゲージではTOMIXがセットを、KATOも後に追随します。
 峠のシェルパの異名を取り、上述の様にあらゆる編成とペアを組む機関車なだけにどちらのメーカーも「双頭連結器が自社独自規格のカプラー(それも密着・ナックルの2タイプ)に対応できる設計」になっている所がEF63らしい所です。
 登場当初こそ「まさかこんな機種までもがNゲージで出るとは!」とか驚かれたEF63ですが、プレイバリューの点で言えばかなり面白いモデルである事は間違いありません。
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 2両一組で重連運用されるEF63ですから、TOMIXのそれが2両セットなのは当然なのですが、私なんぞはへそ曲がりですから、TOMIXとKATOでペアを組ませて運用しています。
 これならアーノルドも含めて最大5種のカプラーに対応できることになりますので。

 尤もそれ以外ですと例えばブルトレの先頭に立ててみるとかOE88を重連で牽かせるとか言った「夢編成」に使うのが最も多いですが。
 何しろ原則、碓氷峠から殆ど出なかった機関車(車重が重すぎるのと片渡り構造をはじめとする構造の特殊性などから他の線区ではまず使えない)ですのでこういう形で模型の世界だけでも花道を走らせてやるのも良いのではないかと思いますが。
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 更にEF63はTOMIX以前に夢屋というメーカーが16番ブラスモデル並みの細密なNの金属キット(動力まで自作させる!)を出していた事がありそれのキット組み品もなぜか入手しています。
 この間、秋葉原の某中古屋でこれのキットが7000円で出ていましたが、もしこれがキット組み品で出ていたらおそらく(できにもよるでしょうが)これの3倍から5倍くらいの値がつくのではないでしょうか。
 それくらいプラ製品とは一線を画すディテーリングと質感のモデルです。
光山鉄道管理局
 HPです。

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この記事へのコメント

時間ですよ、しんこちゃんたびたび
2017年12月08日 20:37
お久しぶりです。

「EF63形機関車の証言」といえば僕も一時原作本を持っていましたが、
河合奈保子さん主演の2時間ドラマ「L特急あさま信濃路殺人事件 EF63型機関車の証言」として映像化されたイメージが強いですね。

銀行強盗の容疑者が取り調べで「そうだ、横川駅で撮った写真がここにある!ここにEF63って電気機関車が映ってるだろ?このEF63 19という機関車が事件の起きた日にあさまを引っ張ってたはずだ!」と刑事に向かって発言するシーンがあったのを記憶していますが、そこから十津川警部がEF63形電気機関車を使ったアリバイを暴く…なストーリーだったような。

>≫EF63は「碓氷峠から殆ど出なかった機関車(車重が重すぎるのと片渡り構造をはじめとする構造の特殊性などから他の線区ではまず使えない)」

>EF62は信越本線以外に東海道・山陽本線で荷物列車や団体列車をけん引したそうですが、EF63は碓氷峠以外の運用で活躍がなかったように感じますね。ブルートレインをけん引するEF63というのも乙なものだと思います。

話がそれましたが、「EF63型機関車の証言」は短編集にもなっており、子供が拾った一枚の紙きれから物語が幕を開ける「見知らぬ時刻表」や西鹿児島行ブルートレイン「はやぶさ」を舞台にした「西の終着駅の殺人」が載っており、「西の終着駅の殺人」では台風の影響で鹿児島本線がストップし、ディーゼル機関車がはやぶさをけん引するくだりがあったのを記憶しています。
光山市交通局
2017年12月09日 23:31
>時間ですよ、しんこちゃんたびたびさん

 C-C配置の独特な台車の構造がものを言ったのか、EF62は他の線区でも割合よく使われたようですね。個人的にも好きな機関車のひとつです。

 ブルトレやOE88を牽引させるのは言ってみれば実車の恨みを模型で晴らしている様なものでしょうか、文字通りの縁の下の力持ちみたいな機関車でしたから何か花道でも作ってやりたいような気分もありますね。