鉄道ミステリとNゲージ・19「やけた線路の上の死体」と381系
久しぶりの「鉄道ミステリとNゲージを語る」ネタ。
今回の題材は数年前に上げたブログの増補改訂版です。

「これは紀勢本線を走ってる特急『くろしお』ですね。この電車、他の電車と比べて特殊な型の電車やないですか?」
(中略)
「外から見て、まず車高が低いな、と気づきました。中へ入ると確かに天井が低く、四人が向い合せに座るとやけに窮屈なんです。さして足の長くない四人やのにね」
「それに座席の背もたれに取っ手が付いているんですよ。バスやあるまいし、あんなもの特急列車で初めて見ました」
「そしてよく揺れたでしょ?」
「ええ、揺れましたね。車内販売のおばさんもコーヒーをつぐのに苦労してたし、乗り物酔いしたらしい人も見かけました。-で、今この写真を見ていてもう一つ気がついた事があるんです。この列車、屋根にパンタグラフしかついてない」
(光文社版「無人踏切」有栖川有栖「やけた線路の上の死体」219Pより引用)
鮎川哲也の鉄道アンソロジーは第4弾の「無人踏切」の前後から従来の旧作や話題作家の作品に加えて書き下ろし新作や新人作家のデビューの舞台としての性格も持つようになり、それがシリーズ全体の大きな特色ともなっています。
ここでデビューした作家で最も有名になったのがTVでは「安楽椅子探偵シリーズ」や先日シリーズ化された「臨床犯罪学者 火村英生の推理」を書いている有栖川有栖と思います。
今回取り上げるのは「無人踏切」収録の「やけた線路の上の死体」これが実質的な描き下ろし処女作となっています。
同時にこれも氏の代表作である部員4人(後に5人)の英都大学推理小説研究会の面々が活躍する「月光ゲーム」「双頭の悪魔」「女王国の城」などの傑作をものしたシリーズの第一作でもあります。
夏休みの合宿旅行で和歌山の南部に出かけた推理小説研究会の面々がそこで遭遇した轢死事件の解明に挑む内容ですが、初読の際は作中でホームズ役となる部長の江神二郎の一種茫洋としたキャラクターが印象的でしたし、主人公を含めた各部員の面々の掛け合いも中々に小気味よくアンソロジーの中でもなかなか楽しめた一篇でした。

この作品では「くろしお」にも使われていた381系電車そのものが大きな役割を占めています。ダイヤグラムアリバイと異なり車両そのものをトリックに使った鉄道ミステリというのはそう多くはありません。
実はトリック自体は(作中で江神部長本人が語っていますが)鉄道ミステリの定番ともいえるものでその意味では目新しくないのですが車両の特殊性に注目して最大限の効果を上げている点で先行作へのアドバンスになっている一篇と言えます。
言い換えるならこのトリックは今ならともかくあの当時は「381系でなければ成立しない」作品でもありました(こう書くとネタバレですか?)
そんな所も私が本作を好きなポイントなのですが。
さて、Nゲージでの381系はまずTOMIXが80年代の初め頃に製品化し、一時は入門セットにも使われた定番商品でした。一見して485系に似ているようでいて実は違うというスペシャリティ性はモデルとしてもユニークな存在だったと思います。
ただ、あの当時はNゲージの量産モデルで肝心の振り子機構が再現できないという弱点もあったのですがこれはNに限らず他のサイズのモデルでも同じ事でした。
TOMIXの製品化以前に当時のTMSの記事でモデラーレベルで試作的に振り子機構のモデルが紹介された程度だったと思います。

ずっと後になってKATOのレジェンドコレクションで初めて振り子機構付の381系がリリースされましたが、この時点ですでにE351系などですでに振り子機構付のモデルが製品化されていたので新機構としての感銘は幾分薄かった記憶があります(安定した技法を使った、手慣れた製品化で安心できると言う事も出来るのですが・・・)
とはいえリリース時期の差から当時のTOMIXに比べてモデル自体の洗練度も非常に高い物がありました。
うちに入線しているのもこのKATOの仕様です。
さて、最初にこの作品を読み終えた時は「是非このメンバーの出て来る続編が読みたい」と思ったものですが幸いにその願いは長編「月光ゲーム」で早速叶えられ、その後も長編、短編で陸続として継続されているのは嬉しい事です。
が、この面子による鉄道ミステリ絡みの新作も読んでみたいと思ったりもします。
光山鉄道管理局
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「これは紀勢本線を走ってる特急『くろしお』ですね。この電車、他の電車と比べて特殊な型の電車やないですか?」
(中略)
「外から見て、まず車高が低いな、と気づきました。中へ入ると確かに天井が低く、四人が向い合せに座るとやけに窮屈なんです。さして足の長くない四人やのにね」
「それに座席の背もたれに取っ手が付いているんですよ。バスやあるまいし、あんなもの特急列車で初めて見ました」
「そしてよく揺れたでしょ?」
「ええ、揺れましたね。車内販売のおばさんもコーヒーをつぐのに苦労してたし、乗り物酔いしたらしい人も見かけました。-で、今この写真を見ていてもう一つ気がついた事があるんです。この列車、屋根にパンタグラフしかついてない」
(光文社版「無人踏切」有栖川有栖「やけた線路の上の死体」219Pより引用)
鮎川哲也の鉄道アンソロジーは第4弾の「無人踏切」の前後から従来の旧作や話題作家の作品に加えて書き下ろし新作や新人作家のデビューの舞台としての性格も持つようになり、それがシリーズ全体の大きな特色ともなっています。
ここでデビューした作家で最も有名になったのがTVでは「安楽椅子探偵シリーズ」や先日シリーズ化された「臨床犯罪学者 火村英生の推理」を書いている有栖川有栖と思います。
今回取り上げるのは「無人踏切」収録の「やけた線路の上の死体」これが実質的な描き下ろし処女作となっています。
同時にこれも氏の代表作である部員4人(後に5人)の英都大学推理小説研究会の面々が活躍する「月光ゲーム」「双頭の悪魔」「女王国の城」などの傑作をものしたシリーズの第一作でもあります。
夏休みの合宿旅行で和歌山の南部に出かけた推理小説研究会の面々がそこで遭遇した轢死事件の解明に挑む内容ですが、初読の際は作中でホームズ役となる部長の江神二郎の一種茫洋としたキャラクターが印象的でしたし、主人公を含めた各部員の面々の掛け合いも中々に小気味よくアンソロジーの中でもなかなか楽しめた一篇でした。

この作品では「くろしお」にも使われていた381系電車そのものが大きな役割を占めています。ダイヤグラムアリバイと異なり車両そのものをトリックに使った鉄道ミステリというのはそう多くはありません。
実はトリック自体は(作中で江神部長本人が語っていますが)鉄道ミステリの定番ともいえるものでその意味では目新しくないのですが車両の特殊性に注目して最大限の効果を上げている点で先行作へのアドバンスになっている一篇と言えます。
言い換えるならこのトリックは今ならともかくあの当時は「381系でなければ成立しない」作品でもありました(こう書くとネタバレですか?)
そんな所も私が本作を好きなポイントなのですが。
さて、Nゲージでの381系はまずTOMIXが80年代の初め頃に製品化し、一時は入門セットにも使われた定番商品でした。一見して485系に似ているようでいて実は違うというスペシャリティ性はモデルとしてもユニークな存在だったと思います。
ただ、あの当時はNゲージの量産モデルで肝心の振り子機構が再現できないという弱点もあったのですがこれはNに限らず他のサイズのモデルでも同じ事でした。
TOMIXの製品化以前に当時のTMSの記事でモデラーレベルで試作的に振り子機構のモデルが紹介された程度だったと思います。

ずっと後になってKATOのレジェンドコレクションで初めて振り子機構付の381系がリリースされましたが、この時点ですでにE351系などですでに振り子機構付のモデルが製品化されていたので新機構としての感銘は幾分薄かった記憶があります(安定した技法を使った、手慣れた製品化で安心できると言う事も出来るのですが・・・)
とはいえリリース時期の差から当時のTOMIXに比べてモデル自体の洗練度も非常に高い物がありました。
うちに入線しているのもこのKATOの仕様です。
さて、最初にこの作品を読み終えた時は「是非このメンバーの出て来る続編が読みたい」と思ったものですが幸いにその願いは長編「月光ゲーム」で早速叶えられ、その後も長編、短編で陸続として継続されているのは嬉しい事です。
が、この面子による鉄道ミステリ絡みの新作も読んでみたいと思ったりもします。
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この記事へのコメント
「名車キハ81系に引導を渡した憎らしい形式」などとケチをつける人も居ますが、特急くろしお号の高速化に多大なる貢献をした偉大な形式であることは紛れもない事実です(^O^)
因みに、私が初めて乗車した国鉄特急車両も381系です。
かつてキハ81を引退させた381系も、283系や287系、289系といったJR形特急電車に職を奪われてしまい時代が変わったことを痛感しています。
381系と言うと私が馴染みがあったのは「しなの」でした。とはいえ実物を見たのは1,2度程度ですが。
振子式と言うと今ではE351系がメジャーになってしまいました(但し私の周囲ではのはなしですが)
国鉄色のカラーリングのせいで普通の人には183系と見分けがつかない向きも多いですが色がないと両者がまるで別物である事が分かりますね。