鉄道ミステリとNゲージ21・「汽笛が響く」とコッペル

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久しぶりに鉄道ミステリとNゲージを語るネタ。

今回は「見えない機関車」所収の南部樹未子作「汽笛が響く」
(以前同タイトルのテレビドラマのはなしを書きましたがこれは本作とは別物です)

本作は息子一家に心理的に虐げられ続けた老女の未必の故意に近い復讐譚の形をとっていますが、題材の陰惨さとは裏腹な不思議とからりとした作風が印象に残っています。
(本作は「見えない機関車」の書き下ろし作なので再読するには文庫版の「見えない機関車」を読むのが早道かと)

さて、これまで20作以上の鉄道ミステリ短編を紹介していますが、そこでは鉄道車両を舞台としたもの、鉄道がトリックに使われた物、鉄道施設を舞台としたものといろいろな題材が登場しています。
が、本作は(未紹介のものも含めて)それらの中で唯一「鉄道の玩具」が小道具に使われた作品なのが特徴です。


鉄道模型を題材にしたミステリではだいぶ前に紹介した土曜ワイド劇場の西村京太郎サスペンスくらいしか記憶にありません。
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最後の階段をのぼりながら、彼女はどこかで汽笛が鳴っているような気がした(中略)5階のフロアに立って、彼女はすうっと息をのんだ。汽笛はすぐそばのショーケースから聞こえてくる。
音の周りに数人の男の子が集まって、「すげぇ!」「カッコいい!」とさわいでいた。彼女は近寄って子供たちの後ろに立った。精巧な鉄道模型を陳列したガラスケースの上を、かわいい汽車がコトコト走っていた。この四十年間、彼女の心に響き続けてきた音と共に(中略)
<これを毎日、おらの部屋で走らせてえ。この汽笛を聞けば、春彦に会えるような気がする。康子や国夫に邪険にされても、これがあればきっと平気でいられるさ>

(光文社カッパノベルズ「見えない機関車」所収「汽笛が響く」305Pより引用)

車体の下に隠されたネジを巻いてハルは、玩具の汽車を走らせた。ところどころすり切れた畳の上で、ポォッ、ポォッと小さいが本物そっくりな汽笛を響かせながら、汽車は白いピストンを動かした。
機関車の先についていた短い煙突は煙こそ出さないが、汽笛を鳴らすたびに赤い火の色に染まった。ネジの横にセットされた二本の乾電池で、煙突の中の豆電球がともる仕組みなのだ。
運転台の石炭の投げ入れ口には、青い制服を着た身長3センチほどの人形がスコップを持って立ち、彼の背後に石炭を積んだ炭水車と客車がついていた。石炭は貨車に黒く描かれ、客車にも白い車窓が一つ一つ描かれている。
しかし乗客の顔はなかった。
(上掲書304Pより引用)

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この描写からお分かりのようにここに登場する玩具の汽車は主人公の老女にとって、過去の楽しかった思い出に誘う触媒としての存在意義をもっています。
それだけに単なる玩具としてでなく主人公の思い入れの象徴として大きな存在になってゆくプロセスの描写は本作の白眉となっています。

この先の展開はネタバレの防止と同時に私には少しきつい内容もあってここでは書きたくありません。ぜひご一読願いたいと思います。

私個人は題材とテーマが有機的なつながりを持つこと、何よりも購入の時のドキドキ感、買った後の無心に汽車を楽しむ老女の心理描写などに一種共感を感じました。
周りの鉄道ファンたちもいつかは誰もがこの主人公位の年齢になると思いますが、その時にこれだけの境地に達する事が出来るだろうかとも思えます。
汽車と自分の人生を重ね合わせ、あの頃の思い出の感傷に浸りながら汽車を走らせる様は、玩具に限らず鉄道模型の趣味の原点のひとつとも言えるところかもしれません。


さて、本作に登場する汽車の玩具ですが、上述の描写からサイズはOゲージ以上の編成物で線路のない所でも走れるぜんまい仕掛けの玩具という事になっています。

実は鉄道模型もヨーロッパで登場した当初はぜんまい駆動の物が主流だった時期があったそうですが、形態も今の玩具よりもトイライクだったようです。
最近、中野の流線型とか静岡のポポンデッタ、あるいは神田のカラマツなんかで見るからに年代物のラージモデルの鉄道模型の中古が売りに出ているのを見かけるのですがサイズ的にはその辺りが近い気がします。

とか書いているとこのはなしをNゲージと結びつけるのが難しくなってしまいます(16番でもきついかも)

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実は本作の事をこのブログで取り上げようと思った時に念頭にあったモデルが2,3年前に出た津川洋行のコッペル蒸機でした。
作中の描写では機関車はテンダーだし、客車まで牽いているので些かイメージとは違うのですが、個人的に本作に似つかわしい印象のNゲージモデルがこれかTOMIXのKSKタイプ位しか思いつけないのです。
あとはミニトリックスのT3蒸機くらいでしょうか。実はこれも元々は鉄道模型でなく手押しの玩具として商品化されていたものだそうです。
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そんな訳でこの先は多少強引な紹介になります。

小指の爪の先位のサイズでありながら自走が出来、2軸客車の1両くらいなら牽引できそう
な蒸機として津川のコッペルが運転会デビューした時、私も含めた誰もがその小ささに目を見張ったものです。
プロポーションもかわいい上に走る様が意外に一生懸命感があるので、多少のオーバースピードもお目に見てやれる気がするのがこのロコの人徳ではあります。

この記事へのコメント

レサレサ
2017年03月12日 02:20
この話は読んでいてふと疑問に感じたことがあります。

「このおもちゃの煙突の発光ギミックは何であるんだろう?」

蒸気機関車の構造上、実機では煙突部分から罐の火は見えません。

強引にあるとすれば火の粉が超大量に出ている場合ですが、赤く輝くほどまで出ているのは故障もので、わざわざ電池を仕込んでまでやるのも変です。
最初「ヘッドライト用の電球の光漏れ(手持ちのフライシュマンのBR81がそうだった)を婆さんが勘違いしている?」とも思ったのですが、読み直すと汽笛の音に連動して光っているみたいですし・・・
光山市交通局
2017年03月12日 23:53
>レサレサさん

 実在しない(と思われる)玩具ですのでその辺りは難しいですね(笑)

 そもそも走行系にぜんまいを使っていながら電球は電池駆動というのは少し変ですし。