鉄道ミステリとNゲージ28・「天空の魔神」

 鉄道ミステリとNゲージのネタ。
 いつもなら鮎川哲也編の大人向け鉄道ミステリアンソロジーからピックアップするのですが、今回は少し趣を変えてジュブナイルから
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 江戸川乱歩の少年探偵シリーズの一作「天空の魔神」から

 先に「消えた貨車」と言う作品で「荷物を積んだ貨車が1両丸ごと抜き取られる」と言う題材を紹介しましたが、こちらの方は伝票や書類の操作でもとから存在しない貨物を消失させ、代金を詐奪するという話でした。
 ですから実際に貨車が消えるという性格のトリックではありません。

 ですが本作では「本当に列車につながれた貨車が消える」それも「編成の真ん中の1両だけが!」という魔法じみたトリックが使われるのですからたまりません。
 少なくとも専用列車がひと編成丸ごと消えるコナンドイルの「臨時急行列車の消失」よりも難易度は高そうです(笑)

 休暇でとある山中の温泉宿に逗留していた少年探偵団の小林少年他2名の団員。
 そこでは近くの村で「空から巨大な手が降りてきて動物をさらい、畑に大穴をあける」と言う騒ぎが持ち上がっていました。
 迷信だと笑う団員たちですが、あるとき貨物列車が駅について見たら列車の真ん中に繋がれていた美術品を運んだ専用貨車が1両だけ消えているのが発見されます。

 はたして天空の魔神は実在するのか?もしそうでないならそのトリックは!?

 と言うのが大まかなストーリー。
 実は本作は少年探偵団ものとしては珍しい事に怪人二十面相や魔法博士は登場せず、それどころか他の全作品に登場している明智小五郎すら出てこない、全て小林少年だけで推理、解決が図られるというシリーズきっての異色作でもあります。

 ラストで小林少年によるトリックの解明が語られるのですが、ただ読むだけだったら「鉄道模型ファンなら誰でも実験したくなる」という難儀なトリックが登場するというのが本作の肝だったりします(爆笑)
 ネタバレも避けたいですが、実はトリックがあまりにも複雑なので一々解説する気になれないので出来れば一読をお勧めしたいです。
 但し机上の空論としては一応可能なトリックではあると申し添えておきます。

DSCN5812.jpg
(ポプラ社「江戸川乱歩全集・空飛ぶ二十面相」229Pより画像引用)

 (因みに普通の模型機関車を使う限りレールへの通電の都合上、TOMIXやユニトラックのポイントでは実験できません。あ、これはネタバレかw)
 このトリックでは当然貨車が主役となりますが、これは国鉄の制式貨車ではなく地方私鉄にまだ残っている(という事になっている)旧式の連結器(ねじ式?)とバッファーが付いた貨車でないとできないと思います。
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 こんな貨車や客車はNゲージで探すとなると外国形しか思いつけません。
 私の手持ちからそれらしいモデルを探すとこんな感じの車両になります。

 むしろプラレールの方が実験しやすいかもしれませんね。

 トリックが複雑なだけに他の作品に比べて理屈っぽくなってしまい面白みに欠けるのが本作の弱点です。犯人も一応登場しますがこれまたキャラクターの個性に欠けますし。
 ですから、これを面白がるのは模型ファンか鉄オタの中でも変わり者だけ(後、私みたいなボンクラ野郎)かもしれません。
光山鉄道管理局
 HPです。


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この記事へのコメント

レサレサ
2018年09月07日 21:35
このトリック、イギリスの小説にあったのを乱歩先生がパク…インスパイアしたもの(江戸川乱歩は隠す気すらなく『探偵小説の「謎」』という本で堂々紹介しています)なのですが、原作が「イギリスの作品」なので鉄道の仕組みが違う事をちゃんと考えに入れ「軽便鉄道」としてあるのがえらい所ですよね。
(光山市交通局さんの方で図を見せてしまっているので、最後にネタバレを書かせてもらいます。)

余白部分に、このトリックのあとに乱歩の紹介した列車トリックを紹介。
「個人に貸しきりの特別急行列車全体が、A駅からB駅までのあいだに、幽霊のように消えうせる。」
・イギリスは閉塞がしっかりしており、A駅を出たのとB駅についてないのは確か。
・A駅を通過した次の列車は普通にB駅に着き、乗員は道中に何もなかったと証言。
・慌てて線路沿いを調べても脱線などの痕跡はない。残骸さえもない。
・側線はないわけではないが、いずれも臨時列車を物理的に引き込めない状況だった。
コナン・ドイルの『消えた臨時列車』というまあそのまんまなタイトルの逸品です。


(『天空の魔神』ネタバレ)
走行中の列車分離自体は補機の解放を見ればわかるように不可能ではありませんが、つながっている列車の一部を離す場合、貫通ブレーキのある列車だとここで一斉にブレーキがかかって機関士たちに一発でばれるし、切り離した貨車(ブレーキ作動)を側線に入れることができません。
イギリスは貨車の貫通ブレーキが20世紀中盤にも完備しておらずこのトリックが使えるのですが、日本国鉄では1930年代初頭には空気ブレーキが完全装備されており、真空ブレーキも含めると貨車にも明治後期からあるのでほぼ不可能です。
そこで乱歩は貫通ブレーキのない軽便鉄道を舞台にしたと・・・
光山市交通局
2018年09月09日 09:03
>レサレサさん

返信が遅くなってすみません。

ドイルの「臨時急行列車の消失」はトリックも去ることながらクライマックスのスペクタクルが強烈な印象を残します。

 それとあの当時は「個人が追加料金を出せば列車を一本自分用に仕立てる事ができる」という制度が新鮮でした(昔のはなしなのにw)

 そう言えばシャーロックホームズの「最後の事件」でもモリアーティ教授が個人列車を仕立ててホームズの乗った列車を追跡するくだりがありますね。

 貫通式ブレーキのはなし、仰る通りで小林少年の説明にも圧縮空気式と足踏み式ブレーキについて言及している個所があります。
 また連結器についても「連結器の輪になったところに~」とある記述がありねじ式連結器であったことは確定の様ですw

 列車消失ネタでは西村京太郎にも「ミステリー列車が消えた」という列車ミステリの怪作が存在しますが、さてこれを取り上げたものかどうか(汗)
レサレサ
2018年09月09日 20:40
>ドイルの「臨時急行列車の消失」はトリックも去ることながら
知っていらしたのでしたらよかった、自分の前述の説明は少々アンフェアだったかな…と思ったのですが、読んでいらしたのでしたら細かい説明が省けました。

ちなみに自分が知っている中で一番インパクトがあった列車消失トリックは藤原宰太郎のトリック解説系の本で読んだので原本は忘れましたが「海沿いを走る列車(機関車単行)を、障害物でいったん止めた後、船のクレーンで吊り上げて持って行ってしまう」という奴でしたw

確かに港湾鉄道規模なら機関車は60tぐらいで大型船なら十分吊り上げられるでしょうが。
光山市交通局
2018年09月11日 23:46
>レサレサさん

「臨時急行列車の消失」最近の鉄道ファンでも読んだ事のない人が多いかもしれないですが、レイアウトでこれの1シーンを再現しても面白そうな描写力がありますね。

「船のクレーンでつり上げて~」のくだりですが、これに近いトリックを事もあろうに新幹線でやったのが田中正紀の「謀殺のチェスゲーム」です。この小説の場合新幹線の車両自体に大仕掛けがしてあるのですが(笑)
 ですがレサレサさんのコメントで本作の事を思い出したらぜひこのブログで書いてみたくなりました。近いうちにあげますのでsの折はご笑覧下さい。