「戦後十年日本の車両」

先日の上京で見つけた古本から。
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 「戦後十年日本の車両」(機芸出版社)
 鉄道模型趣味の別冊にこういうのがあるとは知りませんでした。

 TMSの増刊で実物の別冊と言うと「蒸気機関車の角度」とか「陸蒸機からひかりまで」みたいな実車の細部観察みたいな資料本を連想してしまうのですが、本書の場合は敗戦からその後の10年間に至る間の鉄道の復興、変遷をスナップ写真を通して俯瞰するという構成となっているのが特徴です。

 昭和20年の「客車代用貨車」に敗戦日本の哀れな象徴を感じ、昭和23年服部時計店がTOKYO PXと化した銀座を当時の新車都電だった6000形が通過する姿にアメリカ一色に塗りつぶされた都大路を偲び、昭和25年新世代車両の先駆けの80系湘南電車の登場に力強い未来を感じる。昭和27年には国鉄80周年を義経と静の対面が飾り、昭和29年にはEH10やクハ79の登場が新しい時代の変化を予感させる。

 よく考えるとこの10年間ほど鉄道が大変化を遂げた時期と言うのはなかった様に思います。

 車両ひとつとっても機関車はもとより電車や気動車、客車や貨車まで、全てのジャンルの車両が完全な荒廃状態から急速に復興、新機軸や変革を積極的に取り入れつつ変化したのですからそのインパクトは非常に大きかったのではないかと思います。
 それを象徴するのが下に紹介するページ
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 「Hゴムと2枚窓」
 この時期に登場して急速に普及したマストアイテムと言える存在ですが二枚窓はともかく、当時はHゴムすらもが新たな時代の象徴として扱われているとは思いませんでした。
 かと思うと同じくこの時代に急速な発展を遂げたディーゼル機関車や気動車も新型車のオンパレードとばかりに紹介されています。

 一方でこの10年間に急速に影を薄くしていったかつての花形車、例えばC53やED40、キハニ36450などにもページを割いて光を当てている所は鉄道趣味誌の真骨頂と言えます。
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 本のボリュームはこの当時のTMS別冊と同様に非常に薄いのですが写真や構成は非常に濃密でどこを開いても読み飽きるという事がありません。
 これほどの本がたった300円で店頭に並んでいたのが不思議でしたが、購入後に開いて見たら何枚か写真が切り取られていまして本自体のコンディションと合わせてこれが安かった理由のようです。
 おかげで「近鉄あつた号」や「南海11001」「レキ1」などが見られない状態でしたし。

 ですが前述した様にそれで本書の値打ちが下がったとしても内容的には微々たるものです。


 本書の前書きにはこう書かれています。
「戦後十年 思えば春秋に富む十年であった。モンペ下駄ばきの昭和20年から八頭身Aラインの30年まで。割れ窓すずなりの20年からHゴム蛍光灯の30年まで。全ては年と共に移り変わってきた。荒廃の悪夢を偲ぶもよし。絢爛の晴れ姿を賞でるもよし。日本の車両の十年ここに会し来たるべき十年の力強い発展を待つ」

 これはまさに激動の時代を肌で感じていた執筆者の偽らざる心境でしょう。
 時代の変転をリアルタイムで経験した、しかも鉄道趣味人でないとこういう名文は書けるものではありません。

 一通り目を通して久しぶりに名著と思える鉄道本が入手できたと思います。

 最後に
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