大昔のメルクリン基本セットから 線路とパワーパック

 先日来続いているメルクリンHOの基本セットのはなし
 あれから手持ちの資料でこのセットについて触れている物がないか調べてみたら、1977年度版工作ガイドブックにそのものずばりの写真が載っていました。
P8171352.jpg
(科学教材社 77年版工作ガイドブック 408Pより画像引用)
 当時の価格は1万5千円。当時の16番でこれとほぼ同じ構成のカツミ模型店のセットがEB58に2軸客車(フリー)の構成で1万4千円ですから外車のテツドウモケイとしては異例な安さだった事が分かります。しかも16番の方が実車の存在しないフリースタイルのショーティモデルである事を考えると一応スケールモデルらしいメルクリンのそれのアドバンスは大きいと言わざるを得ません。
 (まあ「外国型には興味がない」と言う向きにはどうでもいいことかもしれないですが)

 基本セットである以上、線路や給電システムの構成や操作性も語らなければなりません。
 幸い、メルクリンはAC3線式という独自の電気システムを取っているので現行のDC2線式の16番・HOゲージとの違いは割合書きやすいと思います(笑)


 線路は金属道床のお座敷運転対応(ですがレイアウトに使う作例も多い)仕様。
 バラストが明るいベージュにモールド、塗装されているのは同じような形式のエンドウの金属道床レールよりも線路らしいです。
P8101280.jpgP8101278.jpg

 その金属道床を裏返すと中央にメルクリン特有の第3の軌条が現れます。
 裏から見ると一本の線ですがこのパーツはアブト線路のような形状をしており、表側にポッチの部分が枕木に沿って飛び出しています。
 機関車側にはこの第3軌条から集電するための巨大なシューが備えられ安定した集電を可能にしてます。

 (実際には3番のレール全てに通電しているので2線式よりも物理的に集電は安定しやすい様です。スローが良く効くのもその辺が関係して居そうです)

 3線式のACはそのままではDCの様に極性の入れ替えによる逆転ができないので方向転換時にはパワーパックから制御信号(厳密には通常よりも高い電圧のパルスを送る方式らしいです)をレールに送り機関車側の逆転機がそれを受信して初めて進行方向を変える仕組みになっています。

P8101277.jpg
 ここでユニークなのがメルクリン独自の操作ロジックのパワーパック。
 現在のものとは操作性が異なると思うのでそのつもりで読んでいただきたいのですが、このパワーパック、スロットルレバーひとつ付いているだけで電源スイッチも逆転レバーもなし。
 店頭でチェックした時、速度が調整できるのはわかったのですが、どうやって走行方向を変えるのかとっさにわかりませんでした。
 私でさえそうなのですから、動作確認に9V電池を持ち出してきたショップの店員さんにはなおさらわかるはずがない。
 幸い説明書がきちんと残っていたのでそれと首っ引きでようやく理解しました。

 実はスロットルを「ゼロ」の目盛りのところからさらに左にチョンと押し込むと逆転信号が送られるのです。
 信号を送ると機関車の側では「ジッ」というノイズが一瞬出て逆転が完了したことを知らせます。あとはスロットルを操作し加速させればいいわけです。
 この「パワーパックと機関車がやりとりしている」が如き独特の操作感覚はDC模型にありがちな無機質なところがなく、あたかも機関車が独立した人格でも持っている様な不思議なインターフェイス感があります。

 しかもこのシステムだと「一旦停止してからでないと逆転できません」からこれまたDCにありがちな「全開走行から即逆転できてしまう」オモチャ丸出しの操作事故から模型を保護する働きもあります。

 モデルとしてはごくシンプルなものでありながらかなり洗練された操作性を持つパワーパック、これが40年以上前のものなのですからすごい。
 こうした直感性を重んじる独特な操作ロジックはDCの模型をWindowsに例えるならメルクリンのそれはあたかもMacかI-PHONEのそれを連想させます。
P8171353.jpg
(科学教材社 77年版工作ガイドブック 409Pより画像引用)
 更にこの基本セットにこれまたパッケージ化された拡張セットを組み合わせると複線エンドレスに待避線やカーブポイントを駆使した片渡り線ふたつ、更にはダブルスリップ標準装備のヤードまで装備した驚くほどマニアックなトラックプランのレイアウトが(お金さえあればw)誰にでも実現できてしまうシステム性の高さ!しかもこれは今から40年以上前のモデルなのです。

 現在の基本セットの拡張は単線メインらしいですがそれでもヤードユニットはほぼ同じ構成の様です。このトラックプラン自体「平面構成のレイアウトとしては「誰もがポイント操作でやってみたいことのほぼ全てができる」点ですぐれものと思います。
 今のTOMIXでも拡張セットだけでこれほどのものができるかどうか。因みにこれとほぼ同じ構成は同じ時期のZゲージでも可能な様になっています。

 これほどのシステム性だったら彼の地でメルクリンが普及するのも当たり前と言う気もします。
 とはいえ、今回の基本セットにはポイントがないのでそれらのメリットが実感しにくいのも確かなのですが。
光山鉄道管理局
 HPです。


にほんブログ村


にほんブログ村


にほんブログ村


鉄道模型 ブログランキングへ

現在参加中です。気に入ったり参考になったらクリックをお願いします。


この記事へのコメント

鉄道模型大好きおじさん
2019年09月23日 11:15
車両、レール、パワーユニット全てセットで15000円ですか。
Nゲージ並の価格ですね。
私が最初に買った鉄道模型、リマのHO入門セット(何故か車両は新幹線0系)も比較的安価でした。
車体がプラスチックということもあるのかも知れませんが、外国メーカーのHOは低価格なものが多かったですね。
なるほど。これなら外国、特に欧州ではHOが普及する訳ですね、
現在でも欧州形はNもHOも大して価格が違わないですし。
それに比べて日本は、今でこそ主要3社からプラスチック製の優れたHO車両が発売されてますが、昔は国産HOといえば殆どが異常に高価な金属製ばかりだった記憶があります。
しかも、 欧州形よりも一回り小さいのに急カーブを曲がれないし。
欧州形よりも日本形のほうが小回りが利かないなんて実物とは真逆ではないですか。
日本のメーカーは本気で普及させる気があったのか甚だ疑問です。
私がHOを比較的すぐに辞めて、Nに転向したのも国産HOは高価過ぎて欲しい車両が買えないこと、安いのは馴染みの少ない外国形やプラモデル形式のものばかりなこと、急カーブを曲がれないこと、などが転向の原因でした。
本当に当時の国内メーカーは馬鹿だったと思います。
普及させる気が無いだけではなく、せっかく食い付いた魚を逃がすようなことをしてたんですからね。
現在の主要3社のプラスチック製HO車両が、せめて30年くらい前からあったらNに転向しなかったかもしれません。
光山市交通局
2019年09月23日 21:36
>鉄道模型大好きおじさん

 メルクリンの場合「基本セットが物凄く安い」ですが拡張を始めると「各パーツや車両が意外に高いという泥沼が待っている問題がありますね。中野や秋葉の中古ショップで見かけるメルクリン製品は殆どが基本セットばっかりの様です。

 16番の日本型がNに比べても歪な進化を遂げたのは各メーカーが基本的に「欧米のコレクター向け特注品の車両モデルを主力に置いていた」事が大きく影響していると思います。
 もともと国内市場の拡大に熱心ではなかった為お座敷線路システムは玩具丸出しですし、量産前提のプラ製品は初期投資が大きすぎて手が出せなかったというのが実際の所ではないでしょうか。

 あとはユーザー側の問題として「細密志向、実車準拠への過度の拘り」が強い傾向も一因と考えます。

 40年ほど前に5000円ちょっとでTOMYが16番のプラ製EF58を出した事がありますが、質感の安っぽさが嫌われて普及しませんでした。

 これには当時から運転派が少なかった事もあるのでしょうが、趣味としてはこういうのは「ユーザーサイドで安っぽくなくさせる」のが面白さであり腕の見せ所だと思うのですが、当時ですらそう言うのは受け入れられなかったようです。