鉄道ミステリとNゲージ・33 「探偵小説」と学研の「待合室付きホーム」(笑)
久しぶりの「鉄道ミステリとNゲージ」ネタ。

今回は我が国の探偵小説の大御所の1人にしてかの金田一耕助の生みの親、横溝正史の「探偵小説」(鮎川哲也編 光文社刊「鉄道ミステリー傑作選 下りはつかり」所収)をば。
このはなしはあるベテラン女歌手の回想の形式を取っています。
戦前のスキーブームの折、とある雪国の街で起こった未解決の殺人事件をめぐり、たまたまその事件を題材に小説を書こうとしていた作家と連れの洋画家、主人公の歌手の3人が別の角度から事件を分析、真犯人とトリックを導き出すという趣向です。
まあ、豪雪と冷え込みに襲われがちな昨今の折に読むには(気分的に)悪くはない短編ではあります。
ただし、いわゆる探偵ものと異なり「あくまで3人のディスカッションによる推理ごっこ」を会話体で進めてゆく形式なので真面目に映像化したら上映時間の大半が「3人組の世間話」になってしまうことは必至です(笑)
で、これのどこがNゲージの模型につながるかと言いますと3人がくっちゃべる舞台が「列車待ち合わせ中のホームの待合室」だからです(ずいぶん無理やり!)

「待合室たって、改札口の前にあるのではなくて、ほら、プラットフォームによくあるでしょう。長方形の箱みたいなのが・・・あれなんですが、幸いそこにはストーブもあるし、いまとちがって、石炭なども山の様に積んであります。ただ、どういうわけか、駅のほうへ向いた窓ガラスが全部こわれて、ベニヤ板が押しつけてあるので、待合室のなかが妙に薄暗くていやでしたが、そんなことを言っている場合ではございません」(前掲書111pより引用)
これを初読した当時(昭和50年)はNゲージの日本形ストラクチャーはまだ黎明期。まともなホームすら出ていない時期だったのですっかり忘れておりました。
ですが、その後ストラクチャーは急速に充実しローカルホーム一つとってもよりどりみどり状態w
上記の「長方形の箱みたいなの(密閉型の待合室)」ですら複数のメーカーから選べます。
GM、TOMIX、ジオコレ、旧製品ならエーダイNからも出ていたと思います。
ですが今回取り上げるのは「たまたまわたしの手持ちだった」といういい加減極まりない理由で今はなき学研の「待合室付きホーム」です。

これはNのローカルホームとしてはごく初期に出たものですが待合室とホーム屋根がコンパクトに一体化した、なかなかレイアウト向きのものと思います。
ですが当時の学研のラインナップは「0系新幹線と485、583系特急電車だけ」だったのでそのどれにも似合いません。なぜ突然変異的にこんなものが出たのかNゲージ七不思議の一つに数え上げられます(って他の6つが思いつかないですがw)

さて小説の方ですが劇中劇の体裁をとって殺人事件が解き明かされますがこれがまた鉄道ミステリの定番トリックのひとつが使われています。
「ふふふ。そら始まったぞ。雪、雪、雪とね。それがトリックになるんだろう」
(前掲書115Pより引用)
「まいったなあ。だから通にはかなわない。すぐに看破されちまう。実は僕がこのトリックを思いついたのは、ほかにわけがあるんだが、たしかにそういう小説はあります。僕の記憶しているのでも二つある(以下略)」
(前掲書133Pより引用)
作者も登場人物もそれは承知しているのですが、類似作の同一トリックに比べて犯人の工作は実に巧みですし、話の持って行き方も非常に良くできています。むしろそのストーリーテリングを楽しみながら意外な結末と作者の表現力を堪能するのが今となっては本作の一番良い楽しみ方ではないかという気がします。
実際、本編はいつ読み返してもその語り口に引き込まれますし飽きるということがない鉄道ミステリ初期の傑作の一つとわたしは思っています。
光山鉄道管理局
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今回は我が国の探偵小説の大御所の1人にしてかの金田一耕助の生みの親、横溝正史の「探偵小説」(鮎川哲也編 光文社刊「鉄道ミステリー傑作選 下りはつかり」所収)をば。
このはなしはあるベテラン女歌手の回想の形式を取っています。
戦前のスキーブームの折、とある雪国の街で起こった未解決の殺人事件をめぐり、たまたまその事件を題材に小説を書こうとしていた作家と連れの洋画家、主人公の歌手の3人が別の角度から事件を分析、真犯人とトリックを導き出すという趣向です。
まあ、豪雪と冷え込みに襲われがちな昨今の折に読むには(気分的に)悪くはない短編ではあります。
ただし、いわゆる探偵ものと異なり「あくまで3人のディスカッションによる推理ごっこ」を会話体で進めてゆく形式なので真面目に映像化したら上映時間の大半が「3人組の世間話」になってしまうことは必至です(笑)
で、これのどこがNゲージの模型につながるかと言いますと3人がくっちゃべる舞台が「列車待ち合わせ中のホームの待合室」だからです(ずいぶん無理やり!)

「待合室たって、改札口の前にあるのではなくて、ほら、プラットフォームによくあるでしょう。長方形の箱みたいなのが・・・あれなんですが、幸いそこにはストーブもあるし、いまとちがって、石炭なども山の様に積んであります。ただ、どういうわけか、駅のほうへ向いた窓ガラスが全部こわれて、ベニヤ板が押しつけてあるので、待合室のなかが妙に薄暗くていやでしたが、そんなことを言っている場合ではございません」(前掲書111pより引用)
これを初読した当時(昭和50年)はNゲージの日本形ストラクチャーはまだ黎明期。まともなホームすら出ていない時期だったのですっかり忘れておりました。
ですが、その後ストラクチャーは急速に充実しローカルホーム一つとってもよりどりみどり状態w
上記の「長方形の箱みたいなの(密閉型の待合室)」ですら複数のメーカーから選べます。
GM、TOMIX、ジオコレ、旧製品ならエーダイNからも出ていたと思います。
ですが今回取り上げるのは「たまたまわたしの手持ちだった」といういい加減極まりない理由で今はなき学研の「待合室付きホーム」です。

これはNのローカルホームとしてはごく初期に出たものですが待合室とホーム屋根がコンパクトに一体化した、なかなかレイアウト向きのものと思います。
ですが当時の学研のラインナップは「0系新幹線と485、583系特急電車だけ」だったのでそのどれにも似合いません。なぜ突然変異的にこんなものが出たのかNゲージ七不思議の一つに数え上げられます(って他の6つが思いつかないですがw)

さて小説の方ですが劇中劇の体裁をとって殺人事件が解き明かされますがこれがまた鉄道ミステリの定番トリックのひとつが使われています。
「ふふふ。そら始まったぞ。雪、雪、雪とね。それがトリックになるんだろう」
(前掲書115Pより引用)
「まいったなあ。だから通にはかなわない。すぐに看破されちまう。実は僕がこのトリックを思いついたのは、ほかにわけがあるんだが、たしかにそういう小説はあります。僕の記憶しているのでも二つある(以下略)」
(前掲書133Pより引用)
作者も登場人物もそれは承知しているのですが、類似作の同一トリックに比べて犯人の工作は実に巧みですし、話の持って行き方も非常に良くできています。むしろそのストーリーテリングを楽しみながら意外な結末と作者の表現力を堪能するのが今となっては本作の一番良い楽しみ方ではないかという気がします。
実際、本編はいつ読み返してもその語り口に引き込まれますし飽きるということがない鉄道ミステリ初期の傑作の一つとわたしは思っています。
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この記事へのコメント
>真面目に映像化したら上映時間の大半が「3人組の世間話」になってしまうことは必至
こういう場合便利なのが「イメージシーン」として映像を流しちゃうやり方でしょう。
鉄道と何も関係ないですが、江戸川乱歩の短編をまとめて連続物に改変で、あえて『赤い部屋』を軸に使っている奇抜な漫画版があり、集まった人たちが自分たちの珍体験を話していくという形式で、それぞれの短編の漫画が本人の回想として描かれた後、最後に赤い部屋本来のエピソードで締めという物がありました。
映像作品でイメージシーンを構成するのはこういう場合は特に効果的でしょうね。
書き忘れていましたが、本作の真価はこういうディスカッションで話を引っ張るように思わせておいて、終盤で実際の殺人が同じ場所で繰り広げられる「日常と非日常の逆転」にもあると思います。
(こう書くとネタバレかな?)
乱歩の「赤い部屋」は30年ほど前にアニメになった事がありますが、原作には出てこない明智小五郎が登場する意外性はあるもののこの手の猟奇的回想譚を映像化する難しさも感じました。
(そういえばこの作品も「中央線で事故を起こして17人だかを殺害する」一種鉄道もの的な所もありますねw)
>列車を脱線
これ(倒叙物?なのでネタバレにはならんでしょう)、乱歩が知らなかったのか、当時は往来危険の法規が違ったのか「故意でないなら列車を脱線させても罪にはならない」とすごい説明になってましたねw
ちなみに乱歩絡みの鉄ネタだと彼のデビュー作は『二銭銅貨』ですが、実は同時に『一枚の切符』という轢死事件の話も書いて送ったそうで、雑誌掲載の差でデビュー扱いではないそうです。
個人的にこの『一枚の切符』に「三等急行列車の貸し枕の代金四十銭也」というのがあり、当時(1922年ごろに書かれたらしい)の時代を感じました。
「一枚の切符」は確かカッパノベルズや光文社文庫で出ている鉄道アンソロジーの「急行出雲」にも取り上げられていました。
鮎川哲也氏の解説でもありましたが本作は初期の作品でありながら明智小五郎の原型を思わせるキャラが登場するなど、後の作品の原点に近い一作ですね。
(ラストのひっくり返しも「二銭銅貨」とほぼ同じ構造ですし)
急行列車の貸し枕は確かに時代を感じますね。戦後の座席寝台列車なんかでもやればよかったのに(笑)