片野正巳氏の訃報と「陸蒸気からひかりまで」の思いで
実は今回は別な題材で記事を上げる予定だったのですが、急遽差し替えさせていただきます。
昨日購入したTMS誌上で片野正巳氏の訃報が掲載され、頁を繰る手が停まりました。
ここ数年の間にTMSの重鎮だった方々が相次いで鬼籍に入られていますが、創刊1000号を目前にしたこの時期に、またひとり勃興期のTMSを支えた方が喪われた事に驚きと共に寂寥感を禁じ得ません。

わたしが片野氏の名前を初めて意識したのは、この趣味を始めた1975年の暮れ頃の事。
当時はTMSや機芸出版社の本は書店ではなく「地元の模型屋さん」で目にするのが殆どでした。書店ではなかったが故か、新刊だけでなくTMSのバックナンバーも1年分くらいストックされていたのですが、その中で目についた一冊が「陸蒸気からひかりまで」でした。
当時、わたしにとって鉄道本の宝物というと図鑑の「機関車・電車」でして、Nゲージサイズの図版で各車両の側面図のカラーイラストがずらりと並んでいる様に圧倒されたものです。
が、店頭でパラ見した「陸蒸気~」はイラストこそ白黒のペン画でしたが、まずその細密感に圧倒されました。
(前述の図鑑のイラストが意外とラフだった事に気づかされた事が本書の最初のご利益でした笑)
それでいて手描きのペン画には設計図とは異なる温かみと対象への愛情が感じられ、その雰囲気もが徐々にわたしを酔わせたものです。

(機芸出版社「陸蒸気からひかりまで」132Pより画像引用)
しかも機関車一つ紹介するのに単なる側面図だけでなく「それにふさわしい編成の列車イラスト」の構成で見開きのゴージャス感が半端ありません。これには大きなインパクトを受けました。
(併せて架線柱や突堤、機関庫などの線路周囲の施設を書き加えて臨場感を与えていた点も見逃せません)
SLブーム真っ最中で模型業界ですら「客車や貨車が添え物に近い扱い」だったあの時期に「機関車だけが鉄道の魅力ではでない」事を視覚的に示してくれた事はわたしの趣味の方向性、特にレイアウト志向に大きな影響を与えてきたと思います。
そして各形式の解説もまた、図鑑の様な無味乾燥さがなくあたかも「一つ一つの形式に人格があるかの様な」ファンとしての愛情が込められた名文が並んでおり、今読み返しても感動する事があります。

当時のTMSの本書の広告には「現代の大人の絵本として」という一節が付いていましたが、当時小学生だったわたしに「大人の絵本の基準」としての好個のベンチマークとなった一冊でもありました。
(今でも自称「大人の絵本」の中で、本書のレベルに達しているのは果たして何冊あるか心もとなく感じます)
そうした本の常として、最初に買った一冊は本が分解するまで読みまくってしまい、後に趣味を再開した時にハードカバーの古本を改めて買い直し、姉妹編の「私鉄電車プロファイル」も揃えて、50年近く経た今でもうちの書庫の手に取りやすい位置に鎮座しています。
そんな辺りからも著者の片野氏の「趣味人としての人柄」が尤もよくにじみ出ていたのが本書だったのは間違いのないところですし、そのイラストの細密感と温かみ、解説に込められた愛情とセンスから有形無形に学ぶところは多かったと思います。
山崎喜陽氏をはじめ中尾豊氏や赤井哲郎氏など、初期のTMSを支えた人材には趣味人としてのしっかりしたポリシーや見識、そして愛情が著作を通して伝わってくる方々ばかりでしたが、片野氏もまたその例に漏れません。
改めて片野氏のご冥福をお祈り致します。
光山鉄道管理局
HPです。

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昨日購入したTMS誌上で片野正巳氏の訃報が掲載され、頁を繰る手が停まりました。
ここ数年の間にTMSの重鎮だった方々が相次いで鬼籍に入られていますが、創刊1000号を目前にしたこの時期に、またひとり勃興期のTMSを支えた方が喪われた事に驚きと共に寂寥感を禁じ得ません。

わたしが片野氏の名前を初めて意識したのは、この趣味を始めた1975年の暮れ頃の事。
当時はTMSや機芸出版社の本は書店ではなく「地元の模型屋さん」で目にするのが殆どでした。書店ではなかったが故か、新刊だけでなくTMSのバックナンバーも1年分くらいストックされていたのですが、その中で目についた一冊が「陸蒸気からひかりまで」でした。
当時、わたしにとって鉄道本の宝物というと図鑑の「機関車・電車」でして、Nゲージサイズの図版で各車両の側面図のカラーイラストがずらりと並んでいる様に圧倒されたものです。
が、店頭でパラ見した「陸蒸気~」はイラストこそ白黒のペン画でしたが、まずその細密感に圧倒されました。
(前述の図鑑のイラストが意外とラフだった事に気づかされた事が本書の最初のご利益でした笑)
それでいて手描きのペン画には設計図とは異なる温かみと対象への愛情が感じられ、その雰囲気もが徐々にわたしを酔わせたものです。

(機芸出版社「陸蒸気からひかりまで」132Pより画像引用)
しかも機関車一つ紹介するのに単なる側面図だけでなく「それにふさわしい編成の列車イラスト」の構成で見開きのゴージャス感が半端ありません。これには大きなインパクトを受けました。
(併せて架線柱や突堤、機関庫などの線路周囲の施設を書き加えて臨場感を与えていた点も見逃せません)
SLブーム真っ最中で模型業界ですら「客車や貨車が添え物に近い扱い」だったあの時期に「機関車だけが鉄道の魅力ではでない」事を視覚的に示してくれた事はわたしの趣味の方向性、特にレイアウト志向に大きな影響を与えてきたと思います。
そして各形式の解説もまた、図鑑の様な無味乾燥さがなくあたかも「一つ一つの形式に人格があるかの様な」ファンとしての愛情が込められた名文が並んでおり、今読み返しても感動する事があります。

当時のTMSの本書の広告には「現代の大人の絵本として」という一節が付いていましたが、当時小学生だったわたしに「大人の絵本の基準」としての好個のベンチマークとなった一冊でもありました。
(今でも自称「大人の絵本」の中で、本書のレベルに達しているのは果たして何冊あるか心もとなく感じます)
そうした本の常として、最初に買った一冊は本が分解するまで読みまくってしまい、後に趣味を再開した時にハードカバーの古本を改めて買い直し、姉妹編の「私鉄電車プロファイル」も揃えて、50年近く経た今でもうちの書庫の手に取りやすい位置に鎮座しています。
そんな辺りからも著者の片野氏の「趣味人としての人柄」が尤もよくにじみ出ていたのが本書だったのは間違いのないところですし、そのイラストの細密感と温かみ、解説に込められた愛情とセンスから有形無形に学ぶところは多かったと思います。
山崎喜陽氏をはじめ中尾豊氏や赤井哲郎氏など、初期のTMSを支えた人材には趣味人としてのしっかりしたポリシーや見識、そして愛情が著作を通して伝わってくる方々ばかりでしたが、片野氏もまたその例に漏れません。
改めて片野氏のご冥福をお祈り致します。
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この記事へのコメント
RMの「吊掛賛歌」はカラーが多かったのでより「大人の絵本」的でしたね。時代と対象を絞り込んでいる分解説も詳細でしたし。
現在TMSで連載中の「昭和鉄道散歩」は写真メインですが、構図やアングルに片野氏のイラストの片鱗を感じさせるカットが一杯でした。連載は今後も当分続くとの事ですから、趣味人としての片野氏はまだ生きていると言っても良いのかもしれません。