S660のはなし

 今回は少し趣向の違うはなしです。
 まあ、たまにはテツドウモケイでない話もいいかと。
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 エドワードは実際虫けらみたいだった。だが、虫けらと同じく五分の魂はあったのだ。
 彼女の言葉に打ちひしがれてはいたが、正にこの瞬間、彼は車を買う決心をつけたのである。

 「ちくしょうめ」とエドワードは内心言った。
 「一生に一度くらいやりたい事をやろう。モードなんかくそくらえだ!」

 そして次の朝、彼は厚板ガラスの御殿の中に入って行き、ピカピカのエナメルと鈍く光る金属の壮麗さに包まれてどっかりと腰を据えている商品の中から、自分でも驚くほどの無頓着さで、あの自動車を買った。
 自動車を買うなんて、実に簡単な事じゃないか!



 彼は心身ともに新しい持ち物の虜になっていた。
 それは彼にとってロマンスであり、冒険であり、また望みながらかつて得たためしのない全てのものに相当したのである。

~(創元推理文庫 クリスティ短編集2「エドワードロビンソンは男でござる」から引用)

 私にとってスポーツカーとはまさにそうやって買われるものと思います(笑)

 自分の身の丈に合った小ささの、それでいて単なる大馬力車でない、基本からスポーツカーの文法に乗っ取って作られた車はかねてから私の欲しいクルマのひとつです。

 20年ほど前、同じホンダから出たビートはその条件にぴったりのクルマでしたが肝心の私が長い事逡巡している間に生産が打ち切られ、以来20年後悔にも似た気持ちを持ち続けていたものです。
 昨春、そのビートの後継と目されるS660が登場した時あの頃の思いが再び首をもたげました。

 私の年齢から言ってもこの種の純然たるスポーツカーを乗り回せるのは今回がほぼぎりぎりのタイミングと言えます。
 そんな訳で先日、S-MX登場の頃以来ご無沙汰しまくりだった地元のホンダディーラーに行きそこにあった試乗車のS660を走らせてもらってきた訳です。

 さて、これまでの私の車歴から言うと軽自動車、リッターカー、クロカン四駆、ミニバン、セダンと大概のジャンルのクルマを網羅してきた感じがします。
 その中には2~4速がクロスした5速MT、リッター100馬力オーバーの車とか、四輪独立懸架のミッドシップ四駆、スポーツセダンが後方でパイロン化するコラムシフト車なんてのもあります。
 (こう書くと如何にも凄そうですが車名を挙げればみんな笑いますw)
 ですが純然たるスポーツカーの文法で作られたスポーツカーと言う奴だけはこれまで自分のクルマとして乗った事がありません。
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 後輪駆動で、超低重心、曲がるのが楽しく、運転中はドライバーがミッションを介してエンジンとおしゃべりしている様なクルマ。
 ざっくり言って私がスポーツカーに求めるのはそういう条件です。
 更に自分の足とするならば外寸は可能な限り小さく小回りが利く事も必須な条件です。

 先に書いた通りここ20年位この条件を満たす国産車は全くの絶無でした。
 MR-Sかマツダロードスター辺りがぎりぎりでそれに近い性能を持っていたのですがこれすら私には大きすぎたのです。
(但し「ただ速いだけ」でいいなら今の国産車は結構条件を満たします。ハイト系軽自動車のターボでもかなり速い筈でしょう)

 後輪駆動に拘った理由は、以前テラノのDE車に載っていた経験が関係しています。
 何しろ乗用車としては許し難いレベルの足回りのプアさとエンジンのトロくささは今思い出しても笑えるほどだったのですがフラットダートに持ち込んでリアを流すような走り方をすると結構面白かったのです。
 これなどは足回りが貧弱だからこその楽しみでした(笑)
 これがFFだと馬鹿力の駆動が前輪に掛かり続けるので運転している方もそれに引っ張られる感覚で馬力があればある程「暴れ馬の牽いた馬車の御者気分」になります。
 これはこれでFF特有の魅力なのですが車との一体感の点でピンとこないのも確かです。

 これに対しミッドシップの回頭性の良さは悪くはありません。軽いフロントに駆動の掛かるリアが後から押す感覚は今にして思えば中々自然だったと思います。
 ただ、私が以前乗っていたミッドシップのクルマ、とにかく重くて燃費が悪かった上に「私の車歴で一二を争う車高と重心の高さ」も付いて来たのでミッドシップの本領はあくまでおまけみたいなレベルでした。
 (べしゃ雪の道であまりに重すぎて「ステアリングをいっぱいに切った状態で交差点を直進、縁石にタイヤがぶつかるまで停まらなかった」事すらあります)

 余談はさておき、
 繰り返しますが、そんな訳で「ミッドシップの後輪駆動、足回りもそこそこ固められ、軽規格内に収まるスポーツカー」というS660の登場はまさに福音だった訳です。
 早速試乗を申し込みディーラーの隅っこにあった白のS660αに乗り込みました。
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 覚悟はしていましたが兎に角全てが低い。
 シートに座りこむのも低いバスタブに滑り込むが如しで一旦座ると当分降りたくなくなります(笑)
 天井も低ければ前方視界も低いのなんのって。普段これより50センチか1メートルは視点の高いクルマに乗っているとこれが結構新鮮です。
 室内の狭さはミニバンに慣れた身には犯罪的ですがスポーツカーを求める向きには悪くありません。
 ただ、メータを始めインパネ周りの造形は私の年代にはコケ脅かしが過ぎました。

 特にデジタルの速度計の回りを針が回転するタコメータというのは視点の移動が大きく直感的な情報収集の点でいささか無理があります。
(昔のデジタルメータはタコメータがバーグラフ表示だったのですが)

 さてエンジンを始動し、走りだします。
 ここ数年、マニュアルミッション車と言うと消防団の積載車(15年前の日産アトラス)位しかないのでそれと同じ要領でシフトアップするとそれほど違和感なく発進します。
 が、やはりそこはスポーツカー。
 シフトストロークが短くまるで電気のスイッチでも入れるような感覚でギアチェンジできるのですがクラッチのタイミングがずれるとすぐがくつきます(汗)
要は回転落ちよりもシフトアップの方が早すぎるという事なのですがシャレードのGT-XXに乗っていた時もこんな感じでしたから私のシフトテクニックはこの20年進歩がありません(大汗)
 しかもクラッチがこれ又重い。シフトチェンジは気合が必要な車ではあります。

 悪い意味で意外だったのがエンジン音。
 後で知ったのですがS660のエンジンは多少のチューンナップがされているもののNBOXと同じものだそうですが、そのせいかシートバックの後ろから響き渡るエンジン音は「ザーッ」と言うノイズとなって伝わります。
 このエンジン音、どこかで聞いた様な気がしたのですが以前乗っていたエスティマハイブリッドのミラーサイクルエンジンのそれにそっくり(笑)
 スポーツカーに乗ってハイブリッドミニバンのサウンドを聞かされるとは思いませんでした。
 少なくともこの点ではタントやアリオンには負けています。
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 今回は屋根を開けて走りませんでしたがそれでも室内のベンチレーションはこれまで私が乗ってきた車の中では一二を争う通風性の良さを見せます。その秘密は「真後ろにもパワーウィンドーがある」点。
 これが開くと意外なほど風通しが良くなるので冬の日の昼間はこれだけで十分なほどです。
 但し前述の「エンジンノイズ」も盛大に侵入しますがw。

 公道に出て試乗コースを走りまわった範囲では街乗りに関する限り6速MTでも4速の範囲で走った方が活発な感じでした。
 最もこのクルマの真価が発揮されるのは後述するつづら折れの続くアップダウンコースと心得ているので全て平地の街中ではまだ真価はわかりませんが。
 とはいえ意識的にクイックなレーンチェンジをやって見ると実に俊敏に曲がってくれます。これこそがこのクルマの最大の値打ちでしょう。

 試乗を終えて降りると膝ががくがくして頭が少しボーっとしました。まるで異世界から帰還でもしたような感じとでも言えば良いでしょうか。
 ただ軽自動車の試乗をやっただけなのにこれほどの非日常感を感じたのは初めてでした。
 この間試乗した現行型のコペンですらもう少し日常感はあったのですがS660の感覚はそれを大きく凌ぎます。

 駆動形式は勿論、エンジン搭載位置から根本的に異なりドライビングポジションも乗用車ベースと全く違うS660は小さくてもスーパーカー並みの感覚を与えてくれます。
 最も非日常性も善し悪しで、このクルマ、まともなトランク自体ついていない上に室内の余裕も絶無に等しい。
 巻き取り式のロールトップを収納するケースがフロントコンパートメントの中にあるにはあるのですが「RM MODELS10冊分程度のスペース」(笑)
 室内にはカップホルダーすらなし(実はあるのですが運転席後方の運転中には絶対使えない場所だったりします)
 それどころかCDの掛かるステレオすらありません(チューナーにI-PODを接続して聴くシステム!)

 後方視界は「アトラスの消防積載車よりましな程度」でセダン感覚で乗ると必ずバックの車庫入れが怖くなると思います。
 その点はホンダも気にしていた様でメーカーオプションでバックモニターが存在します。事実これは非常に便利なアイテムで私でも一発で車庫入れができました(爆)
 因みにカーナビもこのモニタにI-PHONEを接続してホンダのサイト経由で地図情報を使う物らしいです。
 ですがこれだとジャイロがないのでトンネル内の分岐が連続する首都高とかはどうなるのか?

 そう、このクルマのあからさまな欠点は「徹底した日常性のなさ」だったりします。
 何しろスタッドレスタイヤを買ってもこのクルマ単独では運ぶ手段がないのですから(店と自宅の間を4往復すればあるいは・・・爆)

 しかし、それほどあからさまな欠点を持っていながらそれでもこのクルマは非常に魅力的です。
 それゆえにS660は実にスポーツカーらしいクルマと思います。
光山鉄道管理局
 HPです。

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